研究内容

当研究グループでは他大学にはない巨大施設を用いて、(1)加速器科学・ビーム物理、(2)ガンマ線光源開発とその利用、(3)AI・機械学習の加速器運転への適用、の3つの分野で研究を行っています。 

 

高エネルギー電子加速器の高度化および新光源開発

ビーム強度増加および加速器運転安定化

高エネルギー加速器の運転ではビーム強度の増大と安定な加速器運転が常に求められます。
これらを実現するために、ビームのモニターや制御のための様々なシステムを開発しています。
 ● 各種ビームモニターの開発
 ● ベータトロンチューン・リアルタイム補正システムの開発
 ● 制御系、GUIプログラムの高度化
 ● 電子ログによる加速器運転の自動化・効率化・省力化

運転日誌の電子ログ化
スクリーンモニター画像解析

 

ビームダイナミクス・シミュレーション研究

高エネルギー電子ビームは相対性理論や電磁気による相互作用で表され、集団的かつ周期的な複雑系です。加速器を安定な運転やビーム性能向上のためにはビームを用いた実験に加えて、数値計算やシミュレーション研究も重要です。

tune diagram
TWISS parameter

 

Low αc モードによる電子ビーム短バンチ化

逆偏向電磁石(手前の青い電磁石)。
奥にある青い電磁石は通常の偏向電磁石。

ニュースバル電子蓄積リングの特徴の一つに、6台の逆偏向電磁石の採用があります。。逆偏向電磁石の調整によりMomentum Compaction Factor(αc)を容易に変えることが可能です。電子ビームの進行方向長(バンチ長)さはαcに依存するので、αcを小さくすることでバンチ長を短くすることができます。電子ビーム短バンチ化はコヒーレント放射、自由電子レーザー、LCSガンマ線源などの光源開発において重要です。

 

単一サイクル自由電子レーザー

ニュースバルリング直線部に設置された自由電子レーザー

理化学研究所および兵庫県立大理学研究科との共同研究により、単一サイクル自由電子レーザーの実証実験を行っています。ニュースバル電子ビーム、任意テーパー磁場のアンジュレーター、シードレーザー、高精度同期システムの組み合わせにより、電磁波1サイクル分だけの究極的に短い光パルス生成に向けた世界初の実証実験です。

 

レーザーコンプトン散乱(LCS)ガンマ線の光源開発とその利用

人工的に発生させたシンクロトロン放射光のエネルギーの上限は硬X線です。硬X線よりもエネルギーの高い電磁波はガンマ線と呼ばれます。ガンマ線の発生方法の一つにレーザーコンプトンん散乱(Laser Compton Scattering, LCS)があります。

赤外線や可視光のような比較的低エネルギーの光子を高エネルギー電子と衝突させることで、反跳された光子は電子からエネルギーを得てガンマ線領域の高エネルギー光子になります。

LCSガンマ線の特徴として、エネルギー可変、準単色、高指向性、入射光子と同じ偏向性があり、他にはない優れたガンマ線ビームです。

 

LCSガンマ線強度の増大および安定化

レーザー光学系の最適化

発生するガンマ線光子数を増加し、長時間の安定性を維持することはガンマ線利用実験において重要です。これらの実現のため、装置の様々な改善に取り組んでいます。

電子と光子との衝突を効率良く行うため、入射レーザー光学系の最適化計算を行い、実装していきます。また様々なフィードバック補正を取り入れてガンマ線強度の安定性向上を図ります。

 

LCSガンマ線ビームを用いた利用研究

優れた特徴(エネルギー可変、準単色、高指向性、偏光性)を有するLCSガンマ線ビームを用いたガンマ線利用研究を外部機関と共同で行っています。
● 主な利用分野:原子核物理、核変換、光核反応の偏光依存性、対生成陽電子による材料評価、ガンマ線検出の校正など。
● 利用機関:KEK, QST, JAEA, JASRI, 兵庫県大, 甲南大, 京大, 大阪府大、など

 

加速器・放射光における機械学習の適用に関する研究

高エネルギー加速器は巨大装置であり、大量の多種多様な機器から構成されており、これらの機器の一部で生じた故障・劣化・誤設定により加速器で生成されるビームに影響があります。ビームの状態に何らの不具合が起こると原因特定や加速器調整を行う必要がありますが、加速器研究者や運転員の知識や経験に負うところ多々あります。

そのため、我々はAI・機械学習を加速器運転に適用し、ビーム診断の高度化、加速器構成機器の自動調整、さらに将来的には自動運転に向けた研究を行っています。現在行っている研究の一例を以下に紹介します。

 

ベータトロン振動スペクトルの機械学習によるリアルタイム解析

ニューラルネットワーク

蓄積リング内を電子ビームは水平・垂直方向に振動しながら周回しています(ベータトロン振動)。ニュースバルでは振動周波数を常時計測し、周波数スペクトルの異常の有無やピーク周波数をリアルタイムで解析しています。

我々はディープ・ラーニングで学習したモデルにより、スペクトル形状信頼度とピーク値の療法を同時に高速で解析できる手法を開発しました。

ベータトロン振動周波数スペクトル