電子蓄積リング

概要
ニュースバル蓄積リングは軟X線領域放射光の産業利用(半導体リソグラフィー、LIGA、新素材開発、等)を目的とした周長約118mのレーストラック型の中型リングです。
電子銃で発生させた電子ビームを線形加速器で 1.0 GeV まで加速し蓄積リングに導入しています。蓄積リングではリング内に設けた加速空洞により電子ビームのエネルギーを 1.0 GeV に維持しながら、偏向電磁石や挿入光源により放射光を発生させています。また、この加速空洞を用いて、蓄積された電子ビームをさらに(最大 1.5 GeV まで)加速することも可能となっています。
ニュースバルではモーメンタムコンパクションファクター(α)*を容易に正負に可変出来る様に通常の偏向電磁石の他に6台の逆偏向電磁石を採用しており、通常の正α運転の他に、negative α運転あるいはLow α運転時の電子ビームの短バンチ化が可能です。セル間には約2.6mおよび14mの磁石のない空間(直線部)があり、ここは電子ビームの入射用機器、高周波加速空洞、挿入光源が設置されています。挿入光源用の直線部は4カ所用意されており、現在は長尺アンジュレータ(11m)、短尺アンジュレータ(1.5m)、極単パルス自由電子レーザーが設置されています。偏向電磁石からの放射光は偏向電磁石(BM)の偏向角度が10度の点から取り出されます。
現在、1.0 GeV 利用運転モードでは蓄積電流約 350 mA でのTop-UP運転が行われます。また 1.5 GeV 利用運転モードでは 1.0 GeV にて 350 mA まで蓄積後、リング内で 1.5 GeV までエネルギー加速を行います。このモードでは、その後電流値はゆっくり減衰します。利用運転中はCOD(Closed Orbit Distortion)の連続補正により、ビーム軌道の安定性は水平・垂直共に 10 μm 以下に保たれています。
ニュースバル電子蓄積リングのパラメーター
電子エネルギー | ||
---|---|---|
入射 | 1.0 GeV | |
蓄積 | 1.0 - 1.5 GeV | |
周長 | 118.731m | |
ラティス | DBA + Inverse Bending mag. | |
偏向電磁石 | 12台 | |
曲率半径 3.2168m | ||
磁場 1.035 T (@1GeV) | ||
逆偏向電磁石 | 6台 | |
曲率半径 -3.2168m | ||
磁場 1.035 T (@1GeV) | ||
四極電磁石 | ||
偏向部 | 2グループ(16台) | |
短直線部 | 2グループ(24台) | |
長直線部 | 2グループ(12台) | |
長直線部の長さ | ||
短直線部 | 2.6 m | |
長直線部 | 14 m | |
β関数 | 水平/垂直 | |
短直線部 | 8.61 m/8.66 m | |
長直線部 | 1.49 m/8.05 m | |
0°発光点 | 3.32 m/24.49 m | |
10°発光点 | 1.91 m/26.88 m | |
α関数 | 水平/垂直 | |
短直線部 | 0/0 | |
長直線部 | 0/0 | |
0°発光点 | 0.78/2.74 | |
10°発光点 | -0.051136364 | |
γ関数 | 水平/垂直 | |
短直線部 | 0.12 m-1/0.12 m-1 | |
長直線部 | 0.67 m-1/0.12 m-1 | |
0°発光点 | 0.48 m-1/0.34 m-1 | |
10°発光点 | 0.54 m-1/0.50 m-1 | |
分散関数 | ||
短直線部 | 0 m | |
長直線部 | 0 m | |
0°発光点 | 0.03 m | |
10°発光点 | 0.16 m | |
ベータトロン振動数 | 水平:6.30、垂直:2.23 | |
電子エネルギー幅 | 0.04 % (@1.0GeV) | |
モーメンタムコンパクションファクター | 利用運転時:1.3x10-3 | |
クロマティシティ | 水平:2.9、垂直:5.6 | |
蓄積電流 | ||
最大蓄積電流 | 500 mA | |
1GeV利用時 | 350 mA (Top-up) | |
1.5GeV利用時 | < 350 mA (decay) | |
自然エミッタンス | 37 nmrad (@1.0GeV) | |
エミッタンス結合比(κ) | 1% | |
周回周波数/周回時間 | 2.53 MHz/396 ns | |
RF周波数 | 499.955 MHz | |
ハーモニック数(バケット数) | 198 | |
最大加速電圧 | 500 kV | |
放射損失(一周あたり) | 33.4 keV (@1GeV) | |
臨界光子エネルギー/臨界波長 | 0.7 keV/1.8nm (@1GeV) | |
ビーム寿命 | 5.14時間(@1GeV, 350mA) | |
10.3時間(@1.5GeV, 350mA) | ||
バンチ長(σ) | 33ps(利用運転時) | |
2.4ps(Low α運転時) (@1GeV) | ||
ビームサイズ(σ) | 水平/垂直 (@1GeV) | |
短直線部 | 5.6X10-4 m/5.9X10-5 m | |
長直線部 | 2.3X10-4 m/5.7X10-5 m | |
0°発光点 | 1.8X10-4 m/9.2X10-5 m | |
10°発光点 | 1.6X10-4 m/8.5X10-5 m | |
角度広がり(σ) | 水平/垂直(@1GeV) | |
短直線部 | 6.6X10-5/6.8X10-6 | |
長直線部 | 1.6X10-4/7.0X10-6 | |
0°発光点 | 2.1X10-4/4.4X10-6 | |
10°発光点 | 2.3X10-4/4.7X10-6 | |
軌道の安定性(連続COD補正あり) | 水平:<10μm、水平:<10μm | |
リングの真空度 | ||
ビーム無し | 10-9Pa ~ 10-8Pa | |
ビーム有り | 10-8Pa ~ 10-6Pa |
ニュースバル電子蓄積リング半周分のベータトロン関数と分散関数

ニュースバル放射光施設(中央のレーストラック型)および実験ホール

ニュースバル放射光のスペクトル・輝度と利用分野
偏向電磁石からは、連続スペクトル光が得られます。アンジュレータでは、アンジュレータの磁場サイズ、ピッチ、強度で決まる共鳴波長があり、その波長でほぼ単色の放射光を発生できます。アンジュレータスペクトルは共鳴波長をスキャンしてそのピーク値を結んだ曲線です。
ニュースバル放射光施設で利用可能な放射光のスペクトルと輝度

光源開発と利用光子エネルギーの拡大
上記放射光以外の新しい光源開発も進めています。下図は開発している光子エネルギー領域を示します。高エネルギー領域では、レーザーコンプトン散乱ガンマ線の利用がBL01で可能となっています。短バンチビームを発生させることで、THz領域で強度の強いコヒーレント放射光発生が可能で、その研究を進めています。
ニュースバル電子蓄積リングは、Spring-8の電子線形加速器より電子を入射します。電子は左回りで蓄積され、電磁石で曲がるたびに接線方向へ放射光を発生します。放射光は周囲に配置されたビームライン(BL01~BL11)で利用に供与されます。
ニュースバル放射光施設で利用可能な放射光のスペクトルと輝度
