以下の5つのテーマを中心に研究を進めています。本研究室の特長である「放射光3次元ナノプロトタイピングプロセス」を手段に、マイクロ構造体における流体の挙動を利用することにより、各種の生体反応制御、免疫的分析、ポストゲノム解析、プロテオミクス等の生命科学研究に役立つ「バイオシステム」の実現を試みています。
また、これらの学術的基盤となる「流体物質(特に水)の物性解明」や、「液相の光励起ダイナミクス」などの基礎的研究も並行して進めています。
<研究テーマ>
* 波長可変LIGAとナノプリント技術の融合による3次元ナノプロトタイピングの研究
* 数値流力学を用いたマイクロ空間における流体挙動の解析と化学反応制御への応用
* 各種マイクロ流体デバイスの試作と機能評価
* 水の電子状態の解明(理研との共同研究)
* 量子ビームを用いたアミノ酸の気相合成(横浜国大との共同研究)
<研究内容 (マイクロ流体デバイスの開発例を主に紹介)>
垂直操作型バイオマイクロリアクター
近年、内分泌攪乱化学物質(EDCs)の生体への深刻な影響が懸念されており、各環境レベルでの多検体モニタリングを短條ヤで処理することが早急に迫られています。
本研究では垂直単位操作型のマイクロリアクターを新たに提案し、これをナノ・マイクロ3沍ウ加工技術を用いて製作を行い、多検体の環境微量分析のための微小立体化学システムのプロトタイプを作製しました。
構造は生化学反応用のマイクロリアクター槽(反応槽)と分離・精製槽、及び検出槽の各単位機能槽を積層構造としたもので、標的物質分析のための生化学反応操作が縦方向に可能なものです。
さらにモノクローナル抗体による免疫的方法、および酵素法を用いた環境分析手法を確立して、上記微小立体化学システムに適用することにより、数千〜数万の多検体環境似ソを同時かつ多次元的に連続解析可能な微量分析システムへの展開を検討してゆきます。
遺伝子増幅用バイオリアクター
遺伝子診断、遺伝子治療などのカスタム医療や、ゲノム創薬といった近未来医療をより早く実現するため、遺伝子の塩基配列が持つ機能を解析するポストゲノム研究が加速しています。このような遺伝子解析の研究現場で必須の基礎技術であるポリメラーゼ連鎖反応(PCR法)には従来法に対して、さらなる高速化が要求されています。
PCR法とは、数段階の温度サイクルを数十サイクルにわたりかけることでDNAを数百万から数億倍にまで増幅する手法ですが、既存の技術では熱サイクル時間が遅いため、各反応工程に必要とする時間が長くなっています。我々は、サーマルサイクラーのマイクロ化によって熱レスポンスの向上によるPCRプロセスの大幅な時間短縮を目指したバイオマイクロリアクターの作製を試みています。
シリコンを主体としたMEMSプロセスをベースに、同一基板上に反応容器、ヒーター、温度センサーを集積化することにより、高精度な温度制御と高熱収支レスポンスが得られます。さらにマイクロアレイ化することにより、多検体診断、超微量分析に対応しています(図工事中)。
作製したヒーターを通電加熱し、反応容器表面の温度分布を観察した結果、55度で温度分布は±1度以内であり、94度でも約70%の領域は±1度以内という優れた特性が得られました
このリアクターは生化学反応への応用のみならず、各種の光励起反応プロセスの条件制御のための有力なツールとして期待できます。
電気泳動分析チップ
キャピラリー電気泳動はキャピラリー内のイオンを含んだ溶液に電場をかけ、イオン電気泳動移動度の違いに基づいて分離を行う手法です。
われわれは、キャピラリーを樹脂製のマイクロチップ上に形成し、特性を評価しました。
キャピラリーをマイクロチップ上に形成する場合、ガラス製基板を用いて等方性エッチングにより作製するのが通常ですが、断面形状の制御が難しく、製造プロセスが複雑なため、コストがかります。
そこで、われわれは樹脂材料にリソグラフィーで作製したモールドパターンを転ハすることによって、作製プロセスが簡単なキャピラリー電気泳動マイクロチップを作製しました。
モールドの作製にUVリソグラフィーを用いたものと、放射光を用いたものとでは断面形状に大きな違いがあり、放射光を用いて作製したものは泳動距離が長くなった時に、UVリソグラフィーで作製したものに比べて反値幅の広がりが非常に小さくなることを見いだしました(図工事中)。
ピークのブロードを抑えるためにテーパ形状チャネルを持ったキャピラリーを設計作製し評価した結果、予想したとおりのブロードの改善が見られました(図工事中)。
キャピラリー集積型機能性流体バルブ
従来のマイクロ流体制御にはポンプ、バルブ、ミキサーといった機能要素をシステム化することが必須枕となっていました。
このためにマイクロ流体システムを構築するプロセスは複雑で煩雑なものとなり、システム化、高集積化が困難でした。この問題に対してわれわれは、放射光を用いたディープX線リソグラフィーにより機能性流体フィルターを作製し、マイクロ流体制御の検討を行っています(図工事中)。
機能性流体フィルターは、流体挙動の制御において、バルブ、流路、ミキサーとしての役割を果たします。具体的な流体フィルターの構造は、PMMAシートに無数の微細貫通孔が開いた構造となっており、液体はその表面張力によりフィルター表面で保持され、外圧を印加することにより自由にフィルターを透過させることができます(図工事中)。
また、フィルターを透過する際の流体の挙動は複雑であるため、数値流体力学によって解析を行っておます。
以上のように機能を単純な構造に集約化することにより、マイクロ流体システムの構築プロセスを大幅に簡略化することができ、高集積化への応用も期待できます。